「あんたは瑠美さん、母親によく似てるってこと」
「へえ、面白いな。俺は母親ってよくわからないんだ。義父は厳しかったけど優しいいい父親だったから、尊敬していたし愛していた。でも、純のお母さんを見ていて、きっと母親って温かいものなんだなと」
「そっか? おふくろなんかうるさいばっかだけどな」
口ではそんなことを言っても、純はおそらく父母を大切にしているのだとは、最初にケンに食って掛かったことを考えれば、ケンにも察しがついた。
日本は平和な国だと聞いた。
そんな平和な国から来た人間が、ニューヨークの当時のサウスブロンクス辺りに住むなんて無謀だったのではないかと、今更ながらに自分の父母に思いを馳せる。
しかしそれも今となってはもうどうしようもないことなのだ。
商店街の数軒先に、純も馴染みらしい酒屋に入った。
ケンはずらりと並んだ日本酒を見て、思わず「Wow!」を連発した。
「これは絶対土産に持っていきたい!」
純を介して店主にそれぞれの酒について説明してもらうと、ケンは一升瓶のいくつかをピックアップした。
ついでに洋酒の棚から自分の好きなウイスキーやブランデーなどを持ってきてレジに並べた。
それらを見た店主は純に向かって微妙に眉をしかめた。
「おい、純、この人、値段わかってるんだろうな?」
「あ?」
「いや、このブランデー、うちで一番高いやつなんだが」
箱入りバランタインのボトルをちらりとみて、純は「五万??」とつい口にする。
「ケン、これ、日本円で五万もするぞ? いいのか?」
心配になってケンに囁くと、ケンは頷いた。
「父のロウエルが好きだったスコッチなんだ。ぜひ、文也に飲んでほしい」
「え、親父? 親父なんか、んなウイスキーの味なんかわかりゃしねぇぜ?」
「純は何か好きなものはあるか?」
「俺? 俺は飲めるんなら何でもOKだけどよ」
ワインやビールと一緒に、「土産がわりだから」とケンは言ってカードを出した。
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