東京へ行こう -ハンスとケン- 19

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 危険なこともしょっちゅうだなどと真実を言う必要もないだろう。
 いずれにしても純の中でケンに対する態度が少しずつ変わってきたのはわかった。
 祖父母や叔父叔母に会えたことだけでなく、血縁で弟のような存在が一度に二人もできたことは、ケンにとって嬉しい限りだった。
「この人が、大事なお客さんだからって言ったら角の芝寿司さん、早速届けてくれたのよ。お寿司だけじゃ足りないでしょ。早速いただきましょ」
 ケンと純の二人が戻ると、奈美が言うように居間のテーブルには寿司の大きな器の横にすき焼き鍋が登場し、既に美味そうにぐつぐついっている。
 文也はケンが土産替わりにとさっき酒屋の店主に熨斗をつけてもらった酒を差し出すと、また瞼を熱くして感激してくれた。
 ビールで乾杯のあとは、みんなが健啖ぶりを競って寿司を食べ、すき焼きをつつく。
「あっ、俺のウニ、てめ、食いやがったな!?」
「純のウニなんて、書いてないじゃん」
 純がケンのニューヨークでの話を日本語にして文也や奈美、祖父母らに伝えている傍で、享が次々と寿司を口に入れ、途端、寿司ネタの取り合いが始まった。
「ちょっと、お客さんの前でみっともない!」
 奈美にたしなめられようが今にもつかみ合いになるところを、今度は信道がエビをかすめ取る。
「あっ、てめ、ノブ、俺のエビ!」
「喧嘩してるヒマなんかないんじゃね? この弱肉強食のご時世に」
「このやろ、勝手なこと並べたてやがって……」
 言いかけた純も喧嘩をするより食べる方が先とばかり、ガツガツと食べ始め、寿司の器もすき焼きの鍋もあっという間に見事なまでに空になった。
「ケンさん、十分に召し上がった?」
 今のテーブルの状況を見越したらしい奈美が、あらかじめケンの分を皿に取り分けてくれたので、寿司の取り合いというバトルに参加することもなく、ケンもペロリと平らげた。
「しっかし、さすが兄貴の息子だ、お品がいいし箸もうまく使うじゃねぇか」
 感心したように口にする文也はまた目じりを拭っている。
「箸の使い方なんか遺伝するかよ」
 純が文句をたれると、「ばっかいえ」と文也が言い返す。


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