東京へ行こう -ハンスとケン- 2

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 一緒に入っている走り書きのメモにはホテルの名前が書いてあったが、そのホテルが五つ星ホテル以外は考えられないだろうことも推して知るべしだ。
 まあ別にアレクセイは贅沢主義者というわけではないが、それ以外知らないだけだ。
「第一、こないだくれたばっかだろ、クリスマスプレゼント、クロ・デュ・メニルだとか。確かに美味いシャンパンだったけど、値段とか無頓着すぎるんだ、あいつ」
 ケンの養父であるロウエルはもともと富裕な家に生まれたが、生涯結婚はしなかったし、遠い親戚以外身寄りもなく、ずっと屋敷にいた執事のボブや家のことを色々やってくれていたアンジーに遺した分を除いて、一人では広すぎる屋敷や両親から受け継いだかなりな財産をそっくりケンに遺してくれたので、一生遊んで暮らしても十二分にやっていけるほどだ。
 ただし、ハイスクールの校長をしていたロウエルは質実剛健を絵に描いたような人間で、厳しいがきちんと父親の優しさをもってケンを育ててくれたため、ケン自身も贅沢とはそう縁がなかった。
 やがてボブやアンジーが亡くなってからは、さすがに天涯孤独をヒシヒシと感じたが、アンジーが亡くなる前に姪のサラを呼んでくれて、週何回か来て家のことをやってもらえるようになったので、ケンも好き勝手に仕事ができているというわけだった。
 だが、そのサラも六十歳を超え、ジョーの散歩は膝に響くというので、何かの折にはロジァの友人マットにシッターを頼んでいる。
 いつもは広い庭に放し飼いにしているのだから、運動量的には問題ないかもしれないが、散歩を楽しみにしているジョーのためには遊び相手も必要だろう。
 ロジァを中心に結束している『ブラック』の一人で、身体のあちこちにタトゥー、鼻から耳からピアスをした長身のマットは、所謂良識ある大人はあまり声をかけたがらないだろう雰囲気だし、言葉も悪いが、部類の犬好きで、もともとロジァがたまに自分の犬の面倒を頼んでいた。
 やはり人間外見だけで判断してはいけない。


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