東京へ行こう -ハンスとケン- 23

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 子供たちの影が消えると、ヴィラは一気に静まりかえった。
 グレートデンのクラウスも心なしか寂しげに庭に佇んでいた。
 ミュンヘンからは部下のゲミンゲンが同行していて、彼は一階にある執事室を使っていたが、他にメイドなども雇わず、午後に馴染みのハウスキーパーに来てもらって掃除などをしてもらう時だけ、みんなが部屋を追い出された。
 食事は街に出るか、食糧を街で調達してくるかどちらかだというので、翌日からロジァとケンがパンを買いに行っている間、朝はアレクセイが料理の腕を振るった。
 二日目に焼いたパイを、お茶の時間にハウスキーパーのエディスにもふるまったところ、もともとアレクセイの出現に感激していた彼女には泣かんばかりに喜ばれた。
ロジァは好きなバンドのライブがあるというのでモンテカルロ行きを決めたらしかったが、来てみれば水上スキーやウインドサーフィンに夢中で、アレクセイはロジァのやることなすこと冷や汗をかく保護者になってしまって、日中は少しも落ち着いていられないようだった。
 その代り夜になれば、アレクセイがクラブやカジノに足を踏み入れようものなら、彼の周りをたくさんの男女が取り巻くので、ハンスがうまく彼らからアレクセイを救い出すといった感じだったが、そういった非日常的なこともケンには息抜きになった。
 ケンは日中ハンスのヨットでのんびりクルージングで過ごし、夜は地中海の風を感じられるテラスバーでゆったりグラスを傾けたりした。
 そんな時、ハンスが隣に来て、サラリと自分の離婚のことなどを話し出した。
「うまくいっていたと思っていたんだが」
 ハンスはコニャックを一口飲んだ。
「そう思っていたのは俺だけだった。彼女はけど待ってくれていたんだ。結婚する前も結婚してからも」
 ケンは呟くように言うハンスの話をぼんやり聞いていた。
「で、言われたんだ、あなたが愛してるのはアレクセイよ、って」
 少し驚いたのは、話の内容よりそれをハンスがケンに話したことだ。
「人に言われて再確認するってよくあることだろう、彼女は去って、俺は自分の気持ちを再確認することになった」


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