しかしハンスのそんな気持ちを知っても、ケンには何と言っていいかわからなかった。
一つ確かなことは、ブリュンヒルデに去られたハンスが、アレクセイに告白したとしてもそれが受け入れられることはないだろうということだった。
アレクセイは既にハンス以外の人間を選んでしまっていたからだ。
「二月にアレクセイとロジァがミュンヘンに来ただろう? あの時、実は一大決心をしていたんだ、アレクセイにもし誰か大切な人間がいないのならってね」
ハンスは低く笑い、グラスを空にした。
「アレクセイは……よく言われているような浮気症な奴じゃなくて結構一途だからな」
なるほどハンスはアレクセイをよくわかっているらしい。
「君は二人のことを知っているんだよな? かろうじて告白する前に知ったことなんだが」
その言葉で、どうやらハンスはアレクセイにまで失恋という二重パンチをくらったらしいことがケンにもわかった。
「まあ、身近にいるからね」
ケンはハンスの横顔がいつもの精悍さを欠いて、孤独な男の表情を浮かべているのを見て取った。
「人と別れるってのは確かにきついよね。俺は先週、半年つき合った相手と別れたばかり」
ハンスはケンを見た。
「ケンブリッジから来た若い物理学者だったんだけど、同じプロジェクトで知り合って意気投合して、ひょっとしたら結婚も考えられるかなとか……」
年上のキャロル・ワイルダーとの慰め合うような付き合い以外、ケンには恋愛といえるような付き合いはほとんどなかった。
だからきっすいのロンドンっ子だというメグ・ブラウンがおそらくケンにとっては初めてちゃんとつき合った相手だった。
メガネに赤毛の可愛いタイプで、よく笑う明るい女性だった。
だがプロジェクトが終わりに近づく頃から、二人の間はぎくしゃくし始めた。
「何ていうか、頭脳の作りが違うっていうか」
考え込んでいる理由を聞いたケンに、メグは言った。
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