東京へ行こう -ハンスとケン- 25

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「私が百考えて一つの答えを出すうちに、あなたは十とか二十とかの答えを用意する。生きている時間がやっぱり違う気がする。私は四十二.一九五キロを走って一つの答えを出す人間で、あなたは、一〇〇メートルを何秒かで走り抜けて答えを出す人間」
 だから並んで走るのは無理、そう言ってメグはロンドンに帰って行った。
 むしろ全く違うプロジェクトだったら、メグもそんな風に思いつめることもなかったかもしれない。
 けれど、メグが話すようなハイスクールのキャンプやダンスパーティや友達との楽しい思い出はケンにはなかった。
 大学を卒業した時はまだローティーンだった。
 そういえば、今ケンが所属しているチーム「コマンド」の面々は、誰もが同じような経歴を歩んでいて、学校の楽しい思い出などとは縁がないようだ。
 ハイスクールに在籍していたロジァにしても、ロジァが望んで無理やり行っていただけらしい。
 ロジァの弟のティムにしても、ケンと同じように飛び級でハイスクールはとっくに卒業して、大学の研究室にいる。
 チームの人選にはそんな経歴も関係しているのかと、ケンはあらためて思う。
 ともあれ、振られたことはケンにはかなりなダメージとなっていた。
「そうか。それはきついな」
 ハンスは同情の目を向けた。
「まあ、恋愛経験もあまりない人間だし、落ち込んでいたけど、ここにこられてリフレッシュできてよかった」
 ケンが二杯目のコニャックを呑み終えると、ヴィラに戻って最近手に入れた年季の入ったコニャックがあるから飲みなおさないかとハンスが言った。
 ケンは深く考えることもなく、頷いた。
 初めて入ったハンスの部屋は三階のフロア全体を占めており、バスルームがついた大きな寝室と小さな寝室、書斎、リビングとなっていて、おそらく家族が仲睦まじい時を過ごしたはずなのだが、今やひっそりとその余韻すら伺うことはできなかった。
「彼女とは今もいい友達だけどね。夫婦としてはもうとっくに修復は不可能なんだ」


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