吹っ切れたというにはケンはまだ疲れを感じていた。
おそらくハンスにしても心の奥にまだ癒されていないところもあるに違いない。
ただそれでも、お互い前に進むしかないことはわかっていた。
ハンスの話題は仕事の話から、自分の住むミュンヘンの話になり、それからビールの話で二人は盛り上がった。
ほとんどバドワイザーくらいしか飲まないというケンに、ハンスはあれは味のついた水だ、本物の美味いビールを飲ませるからぜひミュンヘンにも来いという。
ハンスは饒舌になり、ケンは笑った。
グラスを取ろうとしたハンスの指がケンの腕に触れた。
次にはハンスの唇がケンの唇に触れた。
一瞬戸惑いを見せたケンだが、再び唇が重なっても拒むことはなかった。
男に唇を奪われながらそれを嫌とも思わないのは酔って感覚が鈍ってしまっているからかもしれなかった。
そういえばいつだったか、酔っ払ってアレクセイともキスしたっけな……
夏の緩い空気やコニャックの芳醇な香りのせいにしてしまいたかったものの、ケンはこの部屋に入った時からこうなることが何となくわかっていた気がした。
ただ、いつぞやはアレクセイと酔っ払って絡まって朝まで眠ってしまっただけだったが、今回は違った。
ケンをソファに組み敷いたハンスは手慣れた仕草でケンから着ている物を脱がせ、丹念な愛撫でケンから強張りを解き、身体を重ねた。
無論、ハンスに触れられることを嫌だと思わなかったことが大きな理由だろうが、そんな風に愛されることの心地よさを享受してしまった自分に、朝、目覚めたケンは驚いていた。
酔いも醒めたはずの明るい部屋で、ぼんやりベッドに起き上っているケンを、隣に横たわっていた裸の男が引き寄せて抱きしめる。
ケンは何も考えられずにされるがまま、口づけを受けた。
ハンスがケンの身体に気を使っているのがわかって、繋げたいと言ったのはケンだ。
身体を繋げれば疲弊した心と痛んだ心とが互いに労りあえるかもしれない。
ちらとそんなことを考えたケンはすぐに自分の甘さを知ることになる。
鈍い痛みのあとに訪れた強烈な刺激。
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