東京へ行こう -ハンスとケン- 30

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 ところが、ナルニア国への扉が再び開いたのは秋だった。
 ちょうどケンの休みの日、唐突に、ハンスが自分でSUV車を運転してケンの家に現れたのだ。
「仕事で一週間ほど、こっちにいる。とりあえず、食事行かないか?」
 ハンスの笑顔はケンの心を揺るがせた。
 ハンスはケンのよく行くレストランバーに行きたがった。
 新しい車のことを夢中で話すハンスは、ニューヨークの場末のバーだろうが、セレブの集うリゾートだろうが、何も変わらない。
 泊まってもいいかと言われて、ケンはNOという術を持たなかった。
 夏以来のハンスに少し触れられただけでケンは熱が上がるのを感じた。
 しかもひどく乱れてしまった自分が朝になってフラッシュバックして、ケンは自分がこんなに淫乱だったのかと我ながら呆れた。
 オフィスではアレクセイも何も言わなかったので、ひょっとしてハンスは自分だけに会いに来たのだろうか、などと考えて、ケンは一人赤面した。
 だが、滞在の最後の夜ケンを迎えに来たハンスは、ゲミンゲンが運転するリムジンから現れた。
 ハンスが滞在している部屋は世界を代表する企業のエグゼクティブとしてふさわしい、最高級のホテルのラグジュアリースイートだった。
「ちょっと普段着過ぎだよね、俺」
 ジャケットを羽織ってきただけマシな方と思いながら、豪奢な部屋を見回した。
「服なんか、脱いでしまえば同じさ」
 ハンスはジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを引き抜き、シャツだけになってから、用意されていたアペリティフをグラスに注いでケンに差し出した。
「悪いな、フレンチだが型にはまった食事しか用意できなくて」
「いや、なかなかこのタワーのこんな贅沢な部屋、見学できるだけでも面白いから」
 ハンスは笑う。


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