東京へ行こう -ハンスとケン- 37

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 参道は人で溢れていたが、両側にずらりと並ぶ露店から美味そうな匂いが漂ってくる。その匂いに誘われてたこ焼き、お好み焼き、イカ焼きとあれやこれや、享と信道がかわるがわる買ってきてケンに味見をさせる。
 教わったようにケンもお参りを済ませ、みんなでお守りを買ったり、おみくじを引いたり、何もかもがケンにとって新鮮で楽しいことばかりだ。
「お、ケン、大吉じゃん! え~俺、末吉~」
 純はおみくじに文句を言っている。
 四人でわいわいと過ごした後、信道と別れて三人家に戻ると、酒の力もあったし、そんな風に家族に近い人々と過ごしていることに心の中のもやもやも忘れていて、初めて畳の上で体験した布団での睡眠は適度な柔らかさと固さが妙に心地よく、朝、享に起こされるまでケンはぐっすりと眠ってしまった。
「ケン、雑煮、できたって、起きなよ」
「good morning ……」
 身体を起こしてそう言ってから、そうだったと昨夜教えられたことを思い出した。
「アケマシテオメデトウゴザイマス」
 日本では元旦にはそう挨拶をするのだと。
「おめでとう! 早く行かないと冷めるって、母さんが」
 外していた腕時計を見ると十時を回っていた。
 享に案内してもらって、顔を洗い歯を磨くと、ケンは居間に顔を出した。
 既に家族全員が顔を揃えている、いや、信道は朝起きて自分の家に帰ったようだし、純はまだいなかった。
「アケマシテオメデトウゴザイマス」
 再びケンは皆に挨拶をすると、同じように返された。
「さあ、どうぞどうぞ、お雑煮なんて初めてでしょ? お口に合うかわからないけど」
 残念ながら、純がいないとケンには言葉が分からなかったが、お雑煮という単語だけは聞き取れた。


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