東京へ行こう -ハンスとケン- 38

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 雑煮はケンにとって面白い歯ごたえと感触で、美味かった。
 やがて欠伸をしながら、純がのっそりと現れた。
「あんたはこの一年また、寝坊の一年だよ」
 奈美が窘めるのも何のその、純はあまり機嫌のよくなさそうな顔でそのまま雑煮を食べ始める。
 午後からは純に東京を案内してもらうことになっていた。
純と二人近くの駅まで歩いて電車に乗った。
 のどかな快晴の風景を電車の窓から追いながらケンはふと、こんな風に、両親の生まれた国で穏やかに生きていくのもありなのかな、などと思ってみた。
 実際、ケンにとって家族といえばジョーしかいないのだ。
 ジョーさえ連れてくればいい。
 あとは、日本語をマスターすればできないことはないように思われた。
 仕事は、アメリカ系の会社の研究所か何か、或はどこかの大学の研究室とか、探せば何とかなるんじゃないか。
 今こうしてこの国に来ているということは、ひょっとしてそういう未来への示唆なのではないか。
 今の仕事は、自分でなければならないということはないだろうし。
 自分が抜けたとしても、スターリングはまたどこかから適切な人間を探し出すだけだ。
 確かに、仕事も仲間も好きだし、住み慣れたあの町も好きだ。
 だが、何だか去年から精神的にきついことが続いていて正直つらい。
 いや、今はきついわけではないのだが、この先おそらくまたきつくなるだろうことを、ケンは恐れていた。
 今のうちに、何とか軌道修正しないと。
「何か、心配ごと?」
 しばらくして電車の中で純に問われて、ケンははっと気づいたように顔を上げた。
「いや、のどかだなと思って」
「まあ、ニューヨークとかと比べたらそうかもね、きっと」
「ロンドンに留学してたって? ニューヨークは?」
 すると純は苦笑いする。
「親父が、ニューヨークは鬼門だって言うし。伯父さんのことがあったからだろ」
「文也は来てくれたんだろ?」


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