「でもとりあえず、一度は休み中に顔を出すようにってお母さんにも言われてるし、明日、帰るつもりなんだけど、明日ご一緒できます?」
千恵美はケンに尋ねた。
「明日、OK。すまないが案内してもらいたい」
「わかった。でも純、あんたも来てよね?」
「え? 俺が一緒に行ったりなんかしたら、火に油を注ぐようなもんじゃね? 憎き岡本家の人間なんだし」
「この際、もう、そんなことどうでもいいわよ。こうしてケンが日本に来てくれたのよ、第一、あんたがいないと、誰が通訳するのよ」
「うう……」
唸りながら純は、通訳として自分も同行するが、自分が行くともっと状況的に悪くなるような気がすると、ケンに言った。
「ひょっとして、君たちは付き合ってる?」
ケンの指摘に、純はまたうう、と唸る。
「そうよ。別に血縁関係あるわけじゃないし、私が瑠美伯母さんのことで岡本さんちを訪ねてから知り合ったんだけど。両親と兄には話したのよ、そしたら父が怒っちゃってさ、バカみたい」
少しは英語を理解するらしく、ケンの言葉に対して、千恵美はそう言って口を尖らせる。
「そうだ、さっきから何か気になるって思ってたんだけど、ケン、ロウエルさんていうんだよね? 育ててくださった方がロウエルさんなんだよね? あの、キース・ロウエルさんって知らないよね?」
純が千恵美の言葉を説明する前に、キース・ロウエルの名前にケンは驚いていた。
「どうして、義父の名前を知ってるんだ?」
千恵美はそれを聞いて、えええーーーっとまた声を上げた。
「だって、伯母さんの部屋に手紙の束があって、その中にその名前のエアメールがあったのよ」
その話にケンは俄然興味をそそられた。
そのキース・ロウエルが義父ともし同一人物だとしたら、母の瑠美はニューヨークに行く前に義父を知っていたことになる。
そうなると、ロウエルがたまたまニューヨークで奇禍にあって亡くなった東京から来た若い夫婦が気の毒で、その子供を養子にしたという話がまた別のものになってくる。
「迷惑をかけるかもしれないが、ぜひ、明日、君に同行させてほしい」
ケンは静かに言った。
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