真美はしばし動くこともできずにケンを凝視した。
「姉さんの……ほんとに?」
「はい。新年おめでとうございます。これ、お年賀です」
「ありがとうございます。どうぞ、おあがり下さい。客間にお通しして、千恵美。それとおじいさまに新年のご挨拶してらっしゃいよ」
真美は固い声で言い、ケンからお年賀の袋を受け取ると、奥へと足早に引っ込んだ。
「初めて甥っ子がはるばる訪ねてきたんだぜ? 普通涙流して喜ぶんじゃね?」
純はコートを脱ぎながら思い切り厭味を言った。
「だから言ったじゃない。うちはみんなああなのよ。何もかもあの頑固ジジイのせいでね」
千恵美は純に言い返した。
真美が純の方をちらッと一瞥しただけで声もかけなかったのは、千恵美と付き合っていることや岡本の息子だと知っているからだろうと純は推察した。
もちろん二人の付き合いを許す気もないに違いない。
ケンと純が通された広い客間は洋室で、出窓からグランドピアノへと明るい陽が差し込んでいる。
千恵美は自分のコートとバッグをピアノの傍のテーブルに置くと、二人を奥のソファへと案内した。
テーブルを囲んで三人掛けのソファが二つ、アームチェアが二つずつ向かい合わせに置いてある。年代ものだがどっしりとしたソファセットだ。
「ちょっと待ってて。あ、それとうちの家族に不愉快なこと言われるかも知れないけど、聞き流して」
千恵美が部屋を出て行くと、純はふうっと大きく息をついて、ソファにもたれこんだ。
「とっくに俺、千恵美の母親には透明人間かってな扱いだぜ」
純の呟きにケンは笑った。
「透明人間?」
「そ。無視ともいう」
「人との付き合いって難しいよね」
ついケンはそんなことを口にした。
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