遠いところをようこそとか、逢えて嬉しいといったねぎらいや歓迎の雰囲気ではなかった。
「はい、はじめまして、ケン・オカモト・ロウエルです。お目にかかれて光栄です」
ケンは老人の問いかけの意味を察して日本語で答えた。
しばし間があった。
「祖父の倉本甚之助です。父の貴之と兄の喜一郎、義姉の洋子です。こちらは岡本純さん」
沈黙を破って千恵美はケンと純の二人に家族を紹介し、最後に純の紹介を付け加えた。
「二十数年も経って、急に母親の家へ何の用があってやってきたんだ? 第一お前がわしの本当の孫だという証拠はあるのか?」
甚之助の言葉には極めて苦々しげな響きがあった。
ケンにもニュアンス的にそれは伝わった。
「養父から実の両親のことを聞かされたのは十五歳の時でした。弁護士のブラットリーの調査で両親のことが分かったのはその二年後でした」
甚之助の言葉にカッときたものの、自分を抑えて純が通訳すると、ケンは岡本家で話したようなことをかいつまんで話した。
「フン、どうせこのわしが倒れたとでも聞いて、財産のおこぼれでももらえると思ってのこのこ顔をだしたんだろう。残念ながらまだ当分死にそうにないがな」
純はケンの話を丁寧に通訳したが、甚之助のこの言葉にはムカついてもう訳して聞かせる気にはなれなかった。
「はるばる逢いにきた孫に対してたいした言い草だな」
やおら立ち上がった純は、「もう、帰ろうぜ。このジジイはあんたを歓迎なんかしてない」とケンの肩を叩いた。
「ほんと、最低! 自分の娘の幸せを奪おうとうしただけじゃなく、今度は自分の孫を盗人呼ばわり?」
怒りを抑えていた純の代わりに千恵美が強い口調で言った。
「千恵美、おじいさまに対してなんてことを言うの!」
母の真美が千恵美を窘めようとしたが、千恵美は母の言葉を遮るように続けた。
「本物かどうかですって? 瑠美伯母様そっくりだってことくらい一目瞭然じゃない?」
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