千恵美の憤りは自分ではもう抑えられなくなっていた。
「行くわよ、ケン、純」
二人を促すと、千恵美はコートとバッグを掴み、たったか部屋のドアへと向かう。
「待ちなさい! 千恵美!」
母と父、兄が口々に呼び止めたが、千恵美は聞く耳を持たなかった。
純に腕を掴まれて立ち上がったケンは、ちょっといきなりの展開に心残りだったが、どうやら甚之助が二人を怒らせるような発言をしたのだろうことは推測できた。
「お逢いできてよかったです。失礼します」
部屋を出る前に英語でそう言った後、確かに日本に来るのなら日本語をもっと勉強するべきだったとケンは少し後悔していた。
プンすかと怒りに任せたまま家を飛び出すように出て行く千恵美の後をケンと純は追いかけた。
「千恵美、おい、あんなこと言って、よかったのか?」
千恵美に追いついた純は彼女の顔を覗き込んだ。
「いいの。もう限界にきてたのよ」
門を開けて外に出たところで、「ごめんなさい」と千恵美はケンに謝った。
「もっと色々話したかったかと思うけど、あのジジイがああだから、話なんてもう無理よ。だって、財産をたかりに来たのかって言ったのよ?! 信じられる? 最低も最低よ!」
千恵美の目から涙がポロポロと零れ落ちた。
純が千恵美の言葉をケンに伝えてくれた。
「千恵美、こちらこそ、ごめんよ。無理に俺が来たばっかりに、君と家族を仲たがいさせるようなことになった」
「そんなこと、ないわ。それより、どこかで口直ししようよ。友達の家がやってる店があるの、行こ」
ケンと純は千恵美の提案に乗ることにした。
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