東京へ行こう -ハンスとケン- 5

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 どうやら二人ともの実家は二人が日本にいないとは思っていなかったようで、弁護士から聞いた事実に驚き嘆いていたという。
 ロウエルの死後、ちょうどケンが十七歳の頃だろうか、岡本純也の親族が一度ニューヨーク市警を訪れ、事件のことや遺された子供が引き取られたことなどを調べていったようだとブラッドリーに聞かされ、ケンのことを教えたらしいのだが、結局ケンに接触してくることはなかった。
 ルーツを調べてみようと過去に思ったことは幾度かあった。
 だがケンが今一つ踏み切れないでいたのには、そういった事情もあった。
 強殺されて十七年も経つのに探そうともしない親族。
 結婚を反対されていたという話から、おそらくその子供にも会いたくはないのだろう。
 飛び級で十歳の時にはH大で物理学や数学に没頭し、そのまま大学院に進み、当時物理学研究室で助教となっていたケンだが、中身はまだ十七歳で、いつか縁者の誰かが自分を探しに来てくれるのではないかというわずかな希望をどこかに持っていた。
 けれどもニューヨークに来たらしい親族はついにケンに会うこともなく帰って行ったという。
 以来、ルーツを辿ろうという思いは捨てた。
 捨てられた子供など世の中に山ほどいる。
 マットにしても、ジャンキーの両親は彼を捨て、既に亡くなったという。
 だがクリスマスイブの前日、うっかり口にしてしまった。
「ルーツを知りたいから東京に行く」
 ミュンヘンからの電話の向こうで、あいつがルーツとか言い出した、それが発端だった。
 十年前、捨てたつもりだったが、どこかにまだそんな思いはあったのだろう。
 いや、いろんな人との関わりの中で、自分という存在を確かめたいとあらためて思ったことも事実だ。


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