東京へ行こう -ハンスとケン- 51

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「そんなとこ」
「しょおがないわねぇ、早いとこ謝った方がいんじゃない?」
 亜矢はそんなことを言いながらカウンターへと戻っていく。
「そうだ」
 千恵美はバッグを開いて中から封筒の束を取り出してテーブルの上に置いた。
「これ。気になってたでしょ? ケン。ロウエルさんからのエアメール。五通ほどある」
 ケンはちょっと驚きつつそれを手に取った。
「ありがとう、持ってきてくれたんだね」
 確かに差出人はキース・ロウエルとなっていて、その筆跡には覚えがあった。
 宛先は倉本瑠美あてとなっている。
「開けてもかまわない?」
「もちろん、どうぞ。伯母様のことは家では腫物にさわるような感じで口にするのもタブーみたいな雰囲気だったわ。物心ついた頃、入っちゃダメって言われてた伯母様のお部屋に入ってみたことがあって、その時、田中さん、て、さっきお茶を持ってきてくれた人なんだけど、こっそり教えてくれたの。祖父の決めたフィアンセをコケにして伯母様恋人と駆け落ちしたんだって。わ、カッコいいって思ったんだけど」
 ケンは手紙を開けながら千恵美の話を聞いていた。
「伯母様のお部屋にはとても楽しげなものがあって、ちょくちょく入ってみてたの。それから一年くらい経って、私、五年生だった。アメリカから連絡が入って、伯母様が亡くなったって聞いた。母もしばらくは途方に暮れてた感じだった。祖父は相変わらず怒鳴り散らしていて、勝手に飛び出して勝手にアメリカなんぞで死んで、とか、あたしもう、頭にきてて、伯母様の部屋で外国のおとぎ話の本の間に手紙を見つけたのはその時だったと思う。伯母宛だし、英語だし、中身を確かめようとは思わなかったけど、きっとアメリカに友達がいたんだくらいしか」
「知らせが来た時、親父が一人で行ったんだが、お前んち、代理人よこして誰もこなかったんだって?」
 純が口を挟んだ。


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