東京へ行こう -ハンスとケン- 52

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「私は子供だったから当時のことはよくわからなかったけど、きっと祖父が行かなくていいくらい言ったに決まってる」
 千恵美が断言したところへ、珈琲とサンドイッチやピラフがテーブルに並べられた。
「また、おじいちゃんの話? ほんと千恵美、目の敵にしてるよね、おじいちゃん」
 亜矢が聞きつけてこそっと笑う。
「まあ、この界隈でもいい方じゃなく有名人だけどさ」
 ケンはしかし、瑠美宛てのロウエルの手紙を読み進めるうち、彼らの話が耳に入らないほど、手紙には思いがけない内容がしたためてあった。
「何が書いてあったんだ?」
 五通の手紙をケンが読み終えたのを見ると、純がすかさず聞いた。
「ああ、まあ、とりあえず食べてからにしよう」
 ケンはそう言うと、サンドイッチに手を伸ばした。
 手紙の内容に少し頭の中が混乱していて、ケン自身がまずそれらを冷静に整理する必要があった。
 思い付きが発端だったがルーツを確かめに来たはずだった。
 岡本家では唐突な訪問だったにもかかわらず暖かく迎えてくれたし、お互いに持っていたわだかまりを取り除くこともできた。
 倉本老人が自分をどう思っていようと、母の瑠美が育った家やこの街を自分の目で見ることもできた。
 ケンとしては自分のルーツを確認することができたわけだ。
 だが、ここにきて、それだけではない事実が浮かび上がってきた。
 血筋を辿れば確かにそうなのだが………。
「それで?」
 黙々とピラフを平らげた純が、コーヒーを一口飲んでから、隣のケンに向き直った。
「そう、だね。その前に、千恵美、倉本ゆうこ、という人を知っている?」
 千恵美は小首を傾げた。
「ゆうこ? 裕子おば様のことかな? といっても祖父の一番下の妹で写真でしか。嫁ぎ先で亡くなったとか、手紙に裕子おば様のことが書いてあったの? どうして瑠美伯母様が?」


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