「どうやら、その裕子とロウエルは、裕子がニューヨークに留学している時に知り合ったらしい」
「えええ??」
千恵美は思わず声を上げた。
「ほんと? ってもしかして恋人とかだったり?」
「いや、この内容からすると、そうだったみたいだ」
まさかだった。
裕子という女性とロウエルは結婚の約束までしていたようだ。
だが、父親が危篤だという知らせで裕子は日本に帰ったきり戻らず、何度か手紙を出したが返事もなく、ロウエルは彼女が心変わりしたのだろうと思っていた。
ところが、偶然にもロウエルから裕子宛ての手紙を亡くなった母親の手文庫から見つけた瑠美は、甚之助に問い詰めたところ、父親が危篤というのは裕子を帰国させるための嘘で、アメリカ人と結婚など以ての外だと、甚之助の父は裕子を勝手に決めた相手と結婚させたという。
泣く泣く嫁がされた義妹を祖母は不憫に思ったのか、ロウエルからの手紙を取っておいてくれたのだろう。
瑠美は父の話を聞いて憤り、ロウエルに宛てて手紙を書いた。
だが、当の裕子は嫁いで一年もたたないうちに病気で亡くなっていたのだから、ロウエルは悲痛だったようだ。
それから何度か瑠美とロウエルは手紙をやり取りし、日付が一番新しい手紙には、結婚してアメリカに行くから、その時に裕子の形見などを持っていくと書かれていた。
「え、じゃあ、ロウエルさんは瑠美伯母様の子供と知ってケンを引き取ったってこと?」
「ってより、お前のじいさんとその上のじいさん、とんでもねぇ極道じゃね?」
純は自分のことのように悔しがってテーブルを叩いた。
ロウエルはケンに何も言わなかった。
一人だけ、昔好きな人がいたが別れたと聞いたことはあったが、まさかそれがケンの母親の縁者だなどとは言わなかったし、ケンにはただ、近くに居合わせたロウエルが不幸な若い夫婦に遺された赤ん坊を引き取ったのだと話しただけだった。
だがそうすると、奇禍にあった若い日本人夫婦の連絡先がわからなかったため赤ん坊はロウエルが引き取るまで児童福祉局に預けられ、ようやく連絡がついたのはロウエルが亡くなった後だったという、その事実さえが嘘だったということになる。
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