東京へ行こう -ハンスとケン- 56

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「どこかできっと家族三人幸せに暮らしているのならと、それだけを願っておりましたのに、ブラッドリーさんからの連絡は寝耳に水でした。ただ、戻ってきた姉の遺品の中に、ロウエルさんから裕子さん宛の手紙が何通かあって、その上、姉の子供を引き取って下さったのがロウエルさんだと知って、もしや母から聞いたことがある、父の妹の恋人だった人と同一人物ではと思い、親しい弁護士を通じて調べていただいたんです」
 それを聞くと、ケンは千恵美から瑠美とロウエルが手紙のやり取りをしていて、その手紙を見せてもらったところだと話した。
「まあ、千恵美、どうしてそんな勝手なこと……」
「だってあの家じゃ、伯母様のこと腫物に触るみたいな扱いじゃない。キース・ロウエルさんがケンのお父さんじゃないかって聞いて、持ってきたのよ」
 咎める真美に、千恵美は言い返す。
「父と一緒に暮らせて、とても幸せでした」
 ケンが言うと、また真美は涙を拭った。
「……そうね、ほんと、因果ですね……父はロウエルという名前さえ憶えてもいないんです。全て父のせいだとは申しませんが、裕子さんのことも姉のことも、父がもっと広い心の持ち主だったら、何か変わっていたのではないかと……そんなこと考えても今更どうしようもないことですけど……」
 その時、ケンはもやもやしていた心の中がふっと晴れていくような思いにかられた。
「いや、今ここに俺がいることが事実なのだと思います。長い間、自分が何者なのか不安定なところにいると思っていました。でも、あなた方とお会いできてようやく自分のいる場所がわかったと思っています」
 簡単なことだったのだ。
 父ロウエルとの幸せこそがルーツだったのだと。
 実の両親や縁者と会えたことで、やっと、それがわかった。
 何て俺はバカだったんだろう。


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