「いや、彼女じゃなくて、ほんと友達で同僚なんだが、日本に行くって言ったら、クリスマスプレゼントとかって。本人はパリにいるはず」
「へえ、気前のいいお友達なんだね」
「まあね」
気前がいいと言うか、何も考えてないと言うか。
千恵美の、部屋も見たいというリクエストに、気軽にいいよと応え、フロントからカードキーを取ってきたケンは二人を従えてエレベーターに乗り込んだ。
どうやら純は千恵美に振り回されている感じだな、とケンは二人を微笑ましく見た。
「わ、すっごおおおい! 広おおおおい!」
喜怒哀楽がすぐに表に出る、千恵美の素直さと、ちょっとヒネたクールさの陰に熱いものを隠している純とは、案外似合いのカップルなのかもしれない。
その時、ドアチャイムが鳴った。
「はい、どなたですか?」
ホテルの人間が何の用だろうと、ケンは訝しげに思いながらドアに向かった。
「やあね、私よ。早く開けて、ダーリン!」
「はあ?」
裏返った英語の台詞に一瞬、ケンは動きを止めた。
今のところケンには誰かに狙われるような事実も思い当たらないし、しかもこの平和そうな日本でなど心当たりはない。
何せ丸腰だ。
「ケン~!! おい、開けろよ、てめ! 待ちくたびれたっての」
次の台詞の声には大いに心当たりがあり、ケンは一気に脱力した。
「逢いたかったぜ、ハニー!」
ドアを開けた途端、ケンをハグする、あまりに予想外のブロンド長髪の主を見た千恵美と純はしばし呆気にとられた。
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