「同じ内容でも言い回しが色々あるからな。まあ、ケンの場合は、私か僕か俺くらい覚えておけばいんじゃね?」
笑いながら純が振り返った。
「難しいと思うから難しいんだ」
「なるほど、そういうもんかな」
新橋駅に近い通りにある店は居酒屋というよりカフェのような雰囲気で、外は寒いのにドアを開けるとムッとするような熱気に包まれた。
いくつかの大テーブルがあったが、若者中心にどの席もうまっていた。
廊下を案内された部屋は大きな男たちが何人も入るには少々狭いものの、畳に座布団だがテーブルの周りに足を降ろせるようになっていた。
焼き鳥に始まって、エビの天ぷら、和風サラダ、牡蠣フライ、もろきゅう、じゃがバター、なすのチーズ焼き、ととにかく居酒屋ならではのメニューから雑多国料理のようなものまで、千恵美はとりあえず片っ端から注文した。
千恵美の心配をよそに、四人の外国人たちは、出てきた料理にいちいち大げさに感激した。
「おい、ロジァ、お前はジンジャエールな」
「ビールなんか水みたいなもんじゃん、いっつも飲んでるんだし」
ケンの忠告も聞かず、ロジァはみんなと一緒にジョッキの生ビールで乾杯している。
そのあとは、小気味よいくらい次から次へと皿が空になっていく。
「ね、ね、みんなお箸とか使い方上手よね。純の方が大道をそれてる」
「うるさいな。要は食えればいいんだって」
感心したように囁く千恵美をチラと見やり、器用なくらいに親指と中指、薬指の三本を使って純は箸を動かす。
「お邪魔しま~す!」
その時襖が開いて、享がひょっこり顔を覗かせた。
「おう、享、遅かったな。ここ、座れ」
純が促したのは隣の席で、アレクセイの隣の席でもあった。
だが三人の金髪人種の出現は享の想像を超えていたらしく、しばし固まったまま一同を見つめていた。
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