東京へ行こう -ハンスとケン- 65

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「あ、俺の弟の享です。享、そっちから、ハンス、ロジァ、アレクセイ」
「よ、よろしく、享です」
 いつもはヘラっとしている顔をひきしめて、享はペコリと頭を下げる。
「高校生かな?」
 ハンスが尋ねた。
「いや、こいつこれでも大学生で、多分、ロジァと同い年くらい?」
 代わりに純が答える。
「そうか、F1が好きなんだって?」
 純がハンスの言葉を通訳すると、享はマジマジとハンスを見つめた。
「俺も車は好きなんだ。よろしくな」
 今度は隣のアレクセイに言われて、享は穴のあくほどアレクセイを見つめたまま固まった。
「え、アレ、アレ、アレクセイ・リワーノフ? まさかまさか……」
 やっと享は言葉を発したものの文章になっていない。
「ケンの同僚なんだってさ。聞きたいことあったら聞いてやるぞ」
 純がガチガチになっている享の背中をバシンと叩く。
 さらにハンスがG社のF1チームの人間だと聞くと、享は、うげっと妙な擬音を発した。「すんげ……何で、こんなとこに、こんな人たち、いんだよ?!」
 ようやく我に返ったように、享は純に聞いてくる。
「だから、アレクセイとロジァはケンの同僚で、ハンスは友人なんだってさ」
「すんげ、ケンってどういう人間?」
 純を介してF1のことを色々質問しているうちに、いつもの享に戻ったようで、ケンやロジァも一緒になって、三年前のアメリカグランプリの話で盛り上がった。
 享も知っている単語を総動員して手振り身振りで話をしているのを見て、通訳にも飽きた純はボソリと呟いた。
「けど、アレクセイ・リワーノフなんて、いつも美女を侍らせているのかと思ってたから、ちょっと意外だぜ」
「あら、あれだけの美貌だもん、美女が吸い寄せられるだけじゃない? なんか、こんな間近で目の保養って感じ」
 うっとり気味に呟く千恵美に、純は、ちぇと舌打ちする。


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