東京へ行こう -ハンスとケン- 67

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「半年ほど前に付き合っていた彼女と別れたばかり。結婚の予定なんてかけらもない。君らは? 結婚とか考えてるの?」
「全然そんなこと、今はまだつき合い始めたばっかだし」
「そうか。でももし、そうなったら知らせてくれ。飛んでくるよ」
「もちろん」
 千恵美の笑顔越しに、ケンはハンスの目と出くわした。
 だがすぐに視線を外したハンスの笑みは何だか苦そうだった。
 今の千恵美との会話が聞こえたのだろう。
 結婚の話をしただけだし、事実を言ったまでで、つき合うかどうか迷っている相手がいるなどと千恵美に話すことでもない。
 ともあれ、ハンスにはまだ何も答えてはいない。
 やはり、早いとこはっきり答えを言うべきだろう。
「ケン、ケンってば、どうしたの? 難しい顔して」
「え?」
 千恵美に覗き込まれて、ケンは一人で考え込んでいたことに気づいた。
「明日、何時の飛行機? お見送り行けたらと思って」
「わざわざ見送りはいいよ、でも何時だっけな」
 ケンは携帯を取り出してスケジュールを確認しようとした。
「午後だよ。ハンスのジェットで一緒に行くから」
 アレクセイが聞きつけてケンの代わりに答えた。
「待てよ、お前が取ってくれたチケットどうすんだ?」
「んなもん、しょうがないだろ。みんなで一緒のがいいに決まってる」
 ケンの抗議にもどこ吹く風の返答だ。
「決まってるって、お前、これだから金銭感覚のないやつは!」
 ファーストクラスだろうが何だろうが、アレクセイにかかればそんなもん、なのだ。
 金銭感覚がないというより、金銭で考える世の中から逸脱してるんだ。
 って、つまり金銭感覚がないってことだけど。


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