東京へ行こう -ハンスとケン- 7

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 今回、母親の携帯と小さな絵、父親の本と黒帯、それに写真をバッグに入れてきた。
 ケンがこの夫妻の子供であることは、既にDNAを調べて確認済みだ。
 タクシーは商店街の前で色々と思いめぐらしているケンを降ろした。
「岡本時計店はここだよ」
 運転手は言葉がわからないなりに身振り手振りで懸命に教えてくれた。
 商店街は屋根のついた舗道を人々がせわしなく行き交い、音楽が流れ、賑やかだった。
 ケンはしばらく岡本時計店と書かれた店から少し離れたところに立っていたが、確かに自分がここに紛れ込んでも何ら違和感がないように思われた。
 しかし実際のところ、ケンは途方に暮れていた。
 何といえばいいのか、いや、その前に日本語がわからない。
 彼らにも英語はわからないだろう、おそらく。
 通訳を頼んで連れてくるんだった。
 やはり出直した方がいいだろうか。
 ガラスのドアの向こうでは、カウンターを挟んで客の応対をしているらしい男が見えた。
 年恰好からするとあれが純也の弟の文也だろうか。
 そんなことをあれこれ考えながら立ち尽くしていたその時。
「よっ、純! なーにやってんだよ、こんなとこで。年越しライブ行くんじゃなかったのかよ」
 いきなり背中をバシンと叩かれて、ケンは驚いた。
「なーんだよ、そんなどっかのリーマンみてぇなコートなんか着ちゃってよ!」
 どうやら親しげに話しかけているのは若い少年だった。
 だが、何を言っているのかわからないケンは慌てて携帯を取り出した。
「どしたん? 純?」
 顔を覗き込まれて、ケンはどうやら誰かと間違われているらしいということだけわかった。
「私はケンです」
 抑揚のない言葉を口にすると、少年は驚いて後退った。
「え、ウッソ、純じゃねぇの? かついでんじゃ……ねぇみてぇだな。え、どいうこと?」


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