東京へ行こう -ハンスとケン- 72

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 ちょっと悔しそうにアレクセイが言うと、「俺は以前、見たことがあるぞ。優雅な山だ」とハンスが得意げに言った。
「ここで、実は一つの謎が浮かび上がったんだ」
「謎?」
「千恵美の話から、母が以前からロウエルを知っていたということがわかったんだ」
「何が謎なんだ?」
 ハンスも身を乗り出してきた。
「ロウエルからは、若い夫婦が奇禍にあったところに偶然出くわし、不憫だったのでその子供を引き取ったって。実の両親のことは十五の頃、初めて話してくれたが、日本人だったということ以外わからず、ブラッドリーに調査をさせているとだけ聞いていた」
 ブラッドリーは何も聞いていなかったのだろうか。
 ケンは思う。
「ところが、亡くなった母はロウエルと手紙のやり取りをしていたと、千恵美から聞かされた」
「どういうことだ? つまり、君の母上はロウエル氏と知り合いだったというわけか?」
 ハンスが聞いた。
「待てよ、ケンの両親はパスポートやIDもなかったから、長いこと身元不明だったって言ってたろ?」
 腕組みをしたアレクセイも口を挟む。
「そう。で、名古屋に行った時、千恵美が母の部屋にあったというロウエルからの手紙を持ってきてくれたんだ」
「やっぱ、あのロウエルからの手紙だったのかよ?」
 いつの間にかロジァもケンの後ろに立っていた。
「ああ。あのロウエルからの手紙だった」
「一体どういうこった?」
 ケンは手紙の内容から、かつてニューヨークに留学していた瑠美の叔母、裕子とロウエルは付き合っていて婚約までしていたこと、父親が危篤と聞かされて帰国したがそれは嘘で、無理やり親の決めた相手と結婚させられたこと、しかも裕子は嫁ぎ先で若くして亡くなったこと、瑠美はそのことを知って家族を嫌い、そのこともあって家を出たらしいことなどがわかったのだと話した。


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