東京へ行こう -ハンスとケン- 74

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「だからさ、この世にいない人間のことはもう勝手に想像するしかないわけだし、要はお前がどう受け止めるかだけの話だってこと」
「いつになくまともな答えだな」
「俺はいつもまともに決まってる!」
 ケンは笑みを浮かべ、改めてアレクセイがただ華やかで金銭感覚のないだけの人間じゃない、自分のことをわかってくれている人間なのだと再認識する。
「まあ、腐れ縁だけあるよな」
 アレクセイは笑ってグラスの酒を飲み乾した。
「わ、犬だ!」
 享の声にケンは振り返った。
享は千恵美と一緒にロジァの持っているタブレットを覗き込んでいる。
「よう、ジョー、元気そうじゃん」
 ロジァが呼びかけると、ワンと犬がほえる声が聞こえた。
「ジョー?」
 ケンはロジァの後ろからタブレットの画面を覗き込んだ。
 すると向こうもケンの声を聞き取ったのか、今度は甘えるようにキュウキュウ言っている。
「こら、重いっての、ジョー」
 画面の向こうでマットが大きな犬をかぶったような状態で、声をあげた。
「こらこら、ジョー、いい子にしてろ。すまないな、マット」
 ジョーを嗜めようと呼びかけるのだが、久しぶりに見たジョーに、ケンの声はつい甘くなる。
 ケンもタブレットや携帯で顔を見ることもできたのだが、里心がつきそうであえて見ないでいた。
「明後日には帰るからな」
「ご心配なく、ってより、何でロジァがそっちにいるんだよ」
「パリに飽きて、今朝東京に来たんだ。城が見たくて、ホテルのオヤジに聞いて行ってみたけど、跡しきゃなくて、つまんねかった」
 ぶーたれるロジァにマットは笑った。


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