「千恵美や享や純や、ご家族みんなで来てもらっても、ケンの家なら全然大丈夫だから、ぜひニューヨークにおいで」
笑い転げているロジァの代わりにアレクセイが言った。
「わあ、絶対行きます! ケン、よろしくね」
「ああ、もちろん」
苦笑しながら、ケンも頷いた。
その時、ケンはふと、ハンスが妙に静かなことに気づいた。
いつもなら賑やかなはずのハンスは窓辺に立って笑みを浮かべていたが、ケンは何となくさっきから視線を合わせないようにしている気がした。
ひょっとしてもう、愛想が尽きたってとこかもな。
何せ俺が煮え切らなすぎるし、舞い上がっていた気分が我に返っていい加減冷めたのかも。
俺だけハンスのジェットに乗らないとか言うとこじれてしまいそうだし、これはありがたく乗せてもらって、友達としてこれからもつき合っていけるようにしておかないと。
時間が経てばまた元のように話せるようになるさ。
ブリュンヒルデはどんな思いでハンスとの別れを決めたのだろう。
ハンスがアレクセイを愛しているから別れたということなら、彼女自身はまだハンスのことを愛しているのではないだろうか。
きついな、それ。
十一時を過ぎたところで、純がそろそろ帰ると言った。
みんなでホテルのエントランスまで三人を送って行った。
「じゃあ、明日、一度伺うから」
ケンは純に言った。
「タクシーの支払はこちらに請求してもらうように言ってあるから、気にしないでちゃんと千恵美を送ってくれ」
ハンスが純に告げた。
「ありがとうございます」
「ケン、また連絡します」
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