東京へ行こう -ハンスとケン- 84

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 アレクセイは初めてケンの屋敷を訪れて以来、古い屋敷だけでなく敷地内の庭や木々が気に入っていて、時折、一緒に飲んだ後にケンの家でコーヒーを飲んでいく。
 今までならそれも楽しかったケンだが、今夜は何となく一人でいたかった。
 だが、勝手知ったるで玄関に向かうアレクセイを無下に追い出すわけにもいかない。
 二人が帰ってきたのを聞きつけて、ジョーが一目散に駆けてきた。
 逢えて嬉しいとアレクセイとケンに交互にじゃれるジョーを従えて、二人はリビングに入った。
 ケンはセントラルヒーティングを入れて、オイルヒーターをつける。
「やっぱりいいよな、このうち。地に足がついているっていうか、庭を眺めながら生活できるって」
「五番街に四フロアも占めるペントハウスに住んでいるような輩が何を言ってるんだ。大体屋上庭園だってあるだろう」
 ケンはマグカップのコーヒーをアレクセイに渡しながら、呆れた視線を向ける。
「うーん、あれは誰だったかに勧められて買っただけで、セキュリティがばっちりってくらいはいいけど、空中にある家なんざ、やっぱ家じゃないって」
「セキュリティばっちりがお前なんかには最重要課題だろう。うちなんか大変だぞ、冬なんかセントラルヒーティング入れたって使ってない部屋のが多いから、必要ない部屋は電源切ってるが、リビングだって寒いとオイルヒーターとか、下手するとマントルピースまで使わないと寒かったりするんだぞ、この超古い屋敷は。大体セキュリティにしても俺のいないときはサラとジョーだけだったりだし、俺なんかいても万が一には何の役にもたたないかもしれないし、こう古くて構えだけでかいだけなのに、長者みたいに思われて強盗なんかに入られた日には冗談じゃない」
「資産家には違いないだろう。だからセキュリティ強化したって言ってたじゃないか」
「セキュリティ会社に契約しているし、以前ロジァが庭の四方八方や家のあちこちにカメラ設置して、タブレットや携帯でも管理できるようにしてくれたけど、何かブラックの連中にバイトで門の外辺りに屯してもらった方がずっと安全な気がする」
 アレクセイは笑った。


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