ケンはアレクセイを見つめた。
「あいつ、おそらくお前の答えはNOだと決めつけてるみたいだ」
「お前に、そう話したのか?」
「いや、別に根掘り葉掘り聞いたわけじゃない、元気がないから何かあったのかってな。そしたら、そんなことを言ってた」
ハンスが愛しているのはお前だから、なんて言えない。
少なくともアレクセイのせいではないのだ。
ケンは逡巡するばかりだった。
「ハンスは、少なくとも金持ちの御曹司連中の中では、すごくいいやつなんだ。ブリュンヒルデも遊び人仲間にあっては一本筋が通っている女性で、二人が結婚した時は俺も本当に祝福したんだ。それがこういう結果になったことは残念だが、二人ともお互いに前に進もうとしていたことは確かだ」
アレクセイは言葉を切った。
「珍しくマジだよな、お前にしちゃ」
ケンは苦笑した。
「俺のことはちゃらんぽらんなヤツと思ってくれても構わないが、ハンスはいい奴だってことだけは信用してくれていい」
アレクセイは立ち上がった。
「ハンスはあと四日は仕事でニューヨークにいるはずだ。お前が決めることだから強要するつもりはないが、俺は、何か、お前もハンスと一緒にいるのがいいような気がしていたんだがな」
心が揺れて、ケンは苦い笑みを浮かべた。
「コーヒー、ごちそうさん」
そう言ってアレクセイは帰って行った。
あと四日……。
やはり、ハンスに言おう。
電話でというのは、わざわざ日本まで来てくれたハンスに対して申し訳なさ過ぎる。
連絡を入れて、どこかで……。
ぼんやりと宙を見つめていると、そんなケンの心を察して寄り添うように、ジョーがクーンと鳴いてケンの膝に足を乗せた。
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