東京へ行こう -ハンスとケン- 87

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 夕方になると雪が舞い始めた。
 ぼんやりと通りに佇んでいたケンは、ようやく寒さを感じて肩をすぼめた。
 電話で連絡を取ろうと思い、携帯を取り出すのだが、仕事中ではとまた携帯をしまう。
 そんなことを繰り返して、昨日とは打って変わって暇な時間が過ぎていった局を少し早目に出たケンは、マンハッタンまで何となく衝き動かされるように来てしまっていた。
 四月にコンベンションセンターで開かれるモーターショー関連の打ち合わせで、ハンスはマンハッタン支社に出向いているはずだと、アレクセイがランチの時にロジァと話していたのを耳にした。
 こんなところに突っ立っていたって、ハンスがここにいるのかどうかも定かではないし、いたとしても仕事中のハンスに声をかけるのも気が引ける。
 第一何ていうわけ?
 一体何やってんだ、俺は。
 今日何度目かのため息をついた。
 かれこれもう三十分以上いやもっとか、寒空に立って向かいの通りに面した支社が入っているビルをぼんやり見ていた。
「あ…」
 いい加減帰るか、と踵を返そうとしたその時、支社から黒いコートを着たハンスが出てくるのが、少し強くなってきた雪の向こうに見えた。
 だが彼の前に女性がいて、ハンスが話しかけているのがわかり、すぐにリムジンが彼らの前に横付けされた。
 咄嗟にケンは近くの地下鉄への入り口へと歩き、階段を駆け降りた。
 おそらくあの女性は仕事の関係者だろうとは思われた。
 だが、どうしても仲好さげに会話する二人のことが頭から離れず、ケンは心ここにあらずでやってきた地下鉄に乗り込んだ。


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