「たまに門の外に出たりするけどリードがいるし、大抵うちの庭をぐるりと三十分から一時間ほど歩くんだ。塀は高いし、庭で遊んだりしてるから運動量は少なくないけど、ジョーが一緒に散歩するのを楽しみにしているから」
「ほんとにジョーは大切にされて幸せなヤツだな」
羨ましげな顔ででハンスが言った。
「ニューヨークにはいつまで?」
「ああ、あと何日かは。四月にモーターショーがあってね、その打ち合わせとか」
「ああ、そうなんだ」
アレクセイが言っていたっけ。
「休み明けの仕事はどう?」
「初日からトラブルで大変だったよ」
何ということはない話をポツリポツリと交わしながら、ハンスは時折雪に足を取られそうになりながら、夜の庭を二人と一匹は歩いた。
屋敷に帰る頃には、室内はコートを脱いでも十分に暖かくなっていた。
ケンはキッチンに行って、ジョーにご飯をやり、コーヒーを入れなおしてリビングに戻った。
「夕方、マンハッタンにいなかったか?」
二人黙ってコーヒーをすすった後、ハンスが言った。
ケンは顔を上げた。
まさか気づいていたなんて思わなかった。
「気のせいじゃない?」
つい、そんな言葉が口をついて出た。
「そうか。いいんだ。ケンに電話をしようかどうしようか考えたりしているうちに、そんなものもまどろっこしくなって、来てしまったんだ」
ハンスがさりげなく言った。
「ケン」
ややあってハンスは深い声でケンを呼んだ。
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