東京へ行こう -ハンスとケン- 93

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 ケンは顔を上げた。
「俺の色々考えての結論なんだ、やっぱり俺はケンを離したくはない。誰にも渡したくはない。ケンが迷っているのなら答えはすぐじゃなくてもいい。いつかケンが俺を見てくれるまで待つ覚悟はできている」
「そ…れは………」
 戸惑いながらケンはハンスを見つめた。
「俺はケンが好きだ。できる限り一緒にいたい。離れているからというなら拠点をニューヨークにしてもいい。ケンを失いたくないんだ」
 こんな風に誰かに言われたことなどなかった。
 それは自分こそなのにとケンは改めて思った。
「俺はそんな、そこまでしてもらうような人間じゃないよ。第一俺は男だし……」
 ケンは唇を噛んだ。
「今時、ドイツでもアメリカでも結婚だってできるじゃないか」
「そういう問題じゃない! いや、それも問題か……」
「俺は結婚とかを強要しているわけじゃない、ただ……」
「違うんだ。それより、ハンスはブリュンヒルデとの離婚で、家庭もパートナーも失ったから、その喪失感があまりにも大きかったから、たまたま失恋した俺が近くにいたから、ちょうどお互いに寂しかったから…だから……」
「最初は慰め合いからだったかもしれない、でもそんなものはただのきっかけだろう。F1も何のそののスピードで、俺はケンに惹かれてた」
 気が付けば、ハンスは立ちあがってケンのすぐ傍に立っていた。
 ハンスの言葉に嘘があるとは思えなかった。
 だけど………。
「だけど……」
「だけど?」
「じゃあ、アレクセイのことは? あんたが本当に愛していたのはアレクセイなんだろ? ずっと見ていたのは……忘れられるのか? そんなに愛したヤツのこと、そんなに簡単に忘れられるわけ?」
 思わずケンは心に引っかかっていたことを吐き出してしまった。


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