東京へ行こう -ハンスとケン- 96

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 そんなハンスの言葉にケンの心は甘く疼く。
「けど日本じゃ、何となくきみに触れるって雰囲気じゃなくて、可愛い女の子もいたし、ひょっとして、暗に俺避けられてるのかなとか思って」
「ハンス……俺……」
「俺の存在がきみに迷惑をかけているだけなら、諦めた方がいいかなんて思ったり……けど、さっき夕方、通りの向こうにきみがいた気がして、そしたら、もう会食とか何とかどうでもよくなって、来ちまった」
「ごめん、ハンス、さっきの……ウソ…ほんとは夕方、行ってみたんだ……逢って話さないとって思って……でも女性をエスコートしてどこか行くみたいだったから……」
「やっぱり俺の目がおかしくなったんじゃなかったんだ。さっきは仕事の打ち合わせを兼ねた夕食会に行くとこだったんだ。彼女は取引先の総責任者だよ、ただの」
「ただのって、そんな大事な会食放ってきたのか?」
「俺にとってはきみの方が大切だから」
「それ……困る……俺なんかのために……俺……」
 ケンは眉を顰めた。
「俺こそハンスのお荷物になっちゃうんじゃないかって、つきあうなんてできないって言わなけりゃって。でもほんとは、俺もどれだけでもハンスと一緒にいたい。いられるだけ。ハンスが好きだ。でも怖くて、こんな、ハンスのことばっかで頭がいっぱいになってしまうなんて、自分がコントロールできないなんて、そんなのって…」
 いつもの理路整然とした言葉が出てこない。
 だがそんなケンをハンスはきつく抱きしめる。
「アレクセイのことを忘れられるのかって言ったよな。正直、忘れられるとは思えない」
 ハンスの言葉にケンの心は揺らぐ。
「だけど、アレクセイの時もブリュンヒルデが去った時も、俺はただ見送るだけだった。でもケン、今度はただきみを見送るなんてできなかった。どうしても追いすがってもきみが欲しかった。離したくないんだ」
 くすぐったくもストレートな言葉はケンの心の奥底まで沁みていく。


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