ペルセウスへ3

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「え? てっきり磐田さん、龍成のこと売り出すとかって息巻いてたけど」
 関は眉を動かして唇の端でニヤッと笑う。
「勘違いしてるんじゃないですか?」
「そう? いや、とにかくほんの一言二言だよ?」
「俺物覚え悪いし」
「またまた、磐田さんに聞いたよ、天下のT大だって? 物覚え悪いはずないじゃない」
 ドンだけへらへら笑えば気が済むんだ、こいつは。
「龍成、怖いプロデューサーにやれって言われたら、なかなか断れないんだよ。何とか、今回だけ、頼むよ」
 心の中ではとっくに関のことをぶん殴っていた坂本だが、こうやってサラリと幸田に頼まれると、「今回だけですよ? 俺、在学中に司法試験パスる予定なんで、俳優とかやってる余裕ないんで」とそれこそ大きな口を叩いて何者だよ的な態度を見せる。
「わかったわかった。考慮する。夏休みだしさ、ちょっとくらいいいだろ?」
 幸田は上から目線で命令するのではないが、下手に出てうまく操られている気がしないでもない。
「はあ」
 何ごとも人より早めにやって余裕を持って遊ぶ、というのが坂本の流儀だ。
 受験の高三の夏に車の免許を取ることも、あらかじめ自分のスケジュールに組み込んでいたことだ。
 ガンガン勉強してたったか試験をパスするのが今のところ坂本の目標の一つだ。
 あと一つは英語力のアップグレード。
 受験のために、ボストンでの生活が長かった高校の同級生、成瀬佑人とたまにやっていた英語でティータイム。
 今は学部は違うが同じ大学でたまに顔を合わせると、昨日の続きのようにやっている。
 バイトはいろいろな目的のため軍資金を得る手段としてやっているわけで、想定外の仕事を押し付けられて、友達との時間を削られるのは、坂本としては本末転倒でしかない。
 前回のキャンパスの撮影の時は自前だったが、今回は用意された衣装に着替えるようにと女性スタッフに控室に連れていかれた。
 主演はイケメン人気俳優の川久保佳孝で、坂本は川久保演ずる大学生の同級生役ということらしい。
 川久保は明るくてちょっとお茶目な面も見せる大学生で、その仲間たちとの友情とラブロマンスがドラマのメインテーマでターゲットは十代二十代だ。
 ヒロインはこちらも今人気上昇中の百瀬菜穂で、今の若者事情なども反映されている。
 待ち時間が多いのがエキストラのデメリットだ。
 その間、本を読むか英語を聴いていればいいのだが、一人隅の方でポツネンとしていると、ヒロインがわざわざ声を掛けてくれたりするのが、坂本にとってはむしろ煩わしかったりする。
「坂本さんってT大なんですか? すごおおい!」
 年は百瀬の方が二つほど上なのだが、彼女は事務所の教育なのか、誰に対しても丁寧だ。
 ただし、何が、すごおおい、のかとは、坂本の心の声だ。

 


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