BBQパーティに呼ばれるくらいに仲間として親しくなった今でも、佑人は完全に忘れたわけではないだろう。
まあ、佑人も俺らのお陰で、今はすっかり笑顔も見せるようになったからな。
坂本は心の中でドヤ顔になるものの、すぐに悪友の顔が目に浮かぶ。
俺らのお陰だ? ホラふいてんじゃねぇ! ちょうしぶっこきやがって!
クソ! 力のやつ、いくら付き合ってるっつっても、佑人という人間はお前の所有物じゃねえ!
ここのところ会えば佑人べったりな山本力とは小学校の時からの腐れ縁だ。
実は力と佑人は最初から顔を合わせればいがみ合う、ヘビとマングースのような関係だったはずが、今はもう、俺たち付き合っちゃってまーす、ハートマーク付き状態だ。
「あ、美月さん、車の中探したけど、ありません」
そう言って慌てた様子で美月のところにやってきたのは、彼女のマネージャー鳥居だ。
目が合ったので坂本はちょっと会釈する。
「うーん、大体頭に入っているんだけど、いろいろ書き込みもしてるし、やっぱ手元にあるのとないのじゃ入り込み方が違うから、どうしよう」
美月が珍しく困ったような顔をしている。
「どうかしたんですか?」
坂本は何気なく聞いてみた。
「それがね、私としたことが、台本、家に忘れてきちゃったらしいのよ」
ちょっと電話してくるわね、と美月はスタジオを出て行った。
その間に、撮影が始まった。
すごおおい、と言っていたヒロインは表情豊かに演じていた。
俳優ってのは、全くよくわからないシロモノだ。
坂本は腕組みをして撮影風景を眺めていた。
やがて監督のカットの声がかかり、美月が気になって坂本はスタジオを出た。
「やっぱり俺が取りに行ってきますよ。お義父さんにカギを開けておいていただけば」
コーヒーの販売機の前に美月と鳥居がいた。
「今、お稽古の途中なのかも。電話でないのよ」
成瀬の家は広い敷地内にあって、門を開けて入り、庭を通り抜けてようやく家が見えてくる、という状況だ。
鳥居の言うお義父さんというのは、その成瀬邸の敷地続きに空手の道場を開いている、成瀬の祖父だ。
「あ、郁ちゃんからだわ」
坂本が近づいていくと、美月は手に持っていた携帯を見て言った。
郁ちゃんというのは、佑人の兄で、今、T大大学院にいる。
天文学者の父親とは少し違うが物理学を極めている。
「ごめんね、ちょっとポカをやっちゃって。今、どこ? ああ、そうよね、大学よね。うん、台本家に忘れちゃったみたいで。え、佑人、家にいるの?」
美月はちょっと言葉を切った。
「そうね、ちょっと聞いてみる。ありがとう」
美月が携帯を切ると、「台本、俺、取りに行ってきましょうか? 佑人、家にいるんなら。俺まだずっと待ちだし」と坂本は声を掛けた。
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