茶化す力の背中を東山が拳で突いた。
「そういや、啓太のやつ、夕べも俺が数学テンパってる時電話かけてきやがって、暇でゴロゴロしてたら、おふくろさんにどやしつけられて、一日買い物つきあわされたとかって」
「代々木だっけ? デザイン学校。俺のとこにも一昨日電話あった」
佑人の言葉を聞きつけて、「あのやろ、受験生ってのちっともわかってねぇな」と力が舌打ちする。
「家にいても面白くないし、きっと寂しいんだよ」
きっとみんなと会いたがってるのだと佑人は思う。そもそもこの仲間は啓太が集めたようなものなのだ。
「ってか、卒業旅行早く行きたいとか、能天気なこと言いやがって」
「だったら坂本に電話しろって言っとけ。能天気同士、話会うんじゃねぇか」
苛つきながら力が言い放つ。
駅まで来ると、東山は急行のホームへ、力と佑人は各停のホームへと向かう。
「やっぱさ、こんな風に一緒に帰れるの、あと少しだろ? ちょっと寂しいよ」
啓太の話の流れで、佑人はつい、そんなことを口にした。
すると力は佑人の両腕をガッシと掴み、いきなりもう少しで唇が触れそうに力の顔が近づいた。
「……っ力!」
びっくりして、佑人は力を凝視する。
「………急に、押し倒したくなるようなことを言うな」
耳元で低く囁いた力の言葉は、おそらく誰にも聞かれてはいないだろうけど。
力は耳まで赤く染まった佑人からようやく腕を離した。
佑人は慌てて後を追う。
「明日、試験頑張れな」
力の降りる駅でドアが開くと、佑人はその背中に言った。
「おう」
閉まったドアの向こうで力が立ち止って振り返る。
電車が動き出すまでじっと見つめる力の視線に、佑人は少しだけ涙腺が緩くなった。
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