校内は朝から少しざわついていた。
二月に入ってからは三年生は補講を受ける生徒がチラホラいるくらいだったのが、今日は既に就職や大学合格が決まって暇を持て余している生徒などが部室に顔を出したりしている。
このざわつきの原因はバレンタインデーという、山本力曰く、チョコレート会社の企みである。
「お、山本、やっぱお出ましか。わざわざチョコもらいに?」
力がやってきたのは十一時になろうという時間だったが、ちょうど玄関の前で出くわした甲本がニヤニヤと揶揄する。
「るせぇな。てめぇは何だよ」
下駄箱を開けると、大小さまざまカラフルなラッピングが雪崩落ちそうになっている。力は取り除けて上履きを取り出したが、やはりいくつかは床に落下した。
「さっすがぁ、ワルい男ほどモテるってなぁ」
「ほしけりゃ、くれてやるぜ」
「またまた、そういう冷酷なヤツだよ、お前は。ま、本命以外いらないってのならわからないでもないけどな」
力はそれには答えず、黙って落ちたチョコの包みを拾うとまた下駄箱の中に突っ込んだ。
「気軽にクラス委員なんか引き受けちまったら、最後まで何だかだとこき使われてんだよ」
甲本は力の後ろから階段を上がりながら、そう嫌そうでもなく言った。
「今日はアルバムが上がったって、呼び出されてよ」
「そら、ご苦労なこった」
「ちぇ、他人事みたく言いやがって」
ガラリと教室の後ろのドアを開けると、既に登校しているクラスメイトが振り返った。
東山の横に佑人の顔を見つけて、力は誰にもわからないほどに息を吐いた。
「力! 受かった! 俺、奇跡だと思わね?!」
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