九時頃、力から後で教室に行く、というメールを受け取った佑人は、居ても立っても居られずドキドキしながら八時半頃にはもう学校に着いていた。
「あ、力………」
「おう、力、やっぱ来ると思った、チョコどんだけもらったよ?」
立ち上がった佑人が声をかけるより先に、坂本がズカズカ教室に入ってきた。
「てめぇはいつでも能天気でありがてぇヤツだよ」
力がつい佑人の視線を避けてしまったのは、少し後ろめたいところがあったからだった。
受かったら知らせる、確かに佑人にそうは言ったのだが。
何やら逡巡している力の肩越しにひょいと佑人を見た坂本と佑人の目が合った。
「佑人ちゃぁん、随分久しぶりじゃない? 会いたかったぁ」
途端に坂本は佑人に駆け寄って抱きしめる。
「え、あ、うん……」
何と言っていいかわからない佑人をぎゅっと抱きしめてから、「そっか何気に佑人もチョコ貰いたかったわけやね?」と坂本は佑人の目を覗き込む。
「いや……」
今日がバレンタインだとはわかっていたが、確かに下駄箱にはいくつかのラッピングが入っていたがはっきり言って佑人にはどうでもいいことだった。
さらに坂本がお茶目なのは今に始まったことではないが、力のことが気になる今の佑人にしてみれば非常にウザったいことこの上ない。
しかも当の力は鞄を机に置くとまた教室を出て行こうとしている。
「え、力……」
と、その時ドアが開いた。
佑人がはっと息を呑んだのは、入ってきたのが内田美香子だったからだ。
内田と力は一瞬相対して立ち止まった。
「来てたんだ、ちょうどよかった。はい、これ」
差し出されたものは小さめにラッピングされたチョコレートのようだった。
「あとでちゃんと返事を聞かせて。一時に校門のとこで待ってるから」
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