内田は受け取ろうとしない力の学生服のポケットに素早くチョコレートを滑り込ませると教室には入らずにコートのまま踵を返し、「おい!」と、苦虫を噛んだような顔の力が口を開いた時は既に階段を駆け下りて行ってしまった。
「ひょひょ! 聴衆の面前でやってくれるじゃねぇか、内田のやつ、ここで本命の力を逃すもんかって?すんげぇ鬼気迫るってやつ?!」
おちゃらかしたのはちょうど力の後ろから教室を出て行こうとしていた甲本だ。
「こいつはやっぱ応えてやんなきゃな、モテ男くん」
ポンッと力の肩を叩くと、つい教室の中を振り返った力の横から甲本はたったか出て行った。
力は佑人が視線を逸らしたのを見て取ると、クッソ、あのやろ、と心の中で悪態をつきながらも取りあえず当初の目的である職員室に向かった。
一階に降りて職員室の後ろ側のドアを開けると、担任の加藤には先客がいた。そういえば甲本はアルバムのことで呼び出されたと言っていた。
出直すか、とまたドアを閉めようとした力だが、加藤にはすぐ見つかった。
「おう、山本、久しぶりだな、遠慮せずに入ってこい」
声が大きいため、他の教員までが振り返る。
「どうした? お前がわざわざこんなとこまで、ひょっとして受かったか?」
仕方なく加藤の机の前に立つと、加藤はニヤニヤと力を見上げた。
「まあ、一応。あんたには世話になったから……」
報告だけはしようと思って、と続けようとした力だが、立ち上がった加藤の大仰な声に遮られた。
「ほんとに受かったのか? 奇跡は東山だけじゃないって?!」
お蔭で他の教員たちから一斉に注目されてしまった。
「最後の模試ん時、ボーダーライン上にいるってことは50パーセントは受かるっつったのはあんただろ」
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