慌てて後を追うように職員室を出る甲本に、「夢が冷めないうちに、とっとと入学手続き済ませろよ、甲本」と加藤が念を押した。
「それでか」
力に追いついて甲本が言った。
「あ?」
「一年の時の担任、俺は加藤で、お前、クマタンだったろ」
怪訝な顔を向ける力に甲本は言った。
クマタンというのは国体で優勝経験もあるという柔道五段、加藤より一回りは大柄な歴史教師、友坂のことだった。
見かけによらず優しいしゃべり方をするので、女子からクマタンという可愛らしいニックネームをつけられていた。
「んで、去年、俺はクマタン、お前は加藤、今年はクマタンが異動になったんで、二人とも担任は加藤と、まあ、センセも色々考えてたわけだな。どっちか文系だったら田辺とかだったかもな」
「なこたどうでもいいだろ」
「フン、お前はそういう、群れねぇやつだったからさ、あの成瀬をして、大事な仲間とか言わせるって、意外」
「……ヤツに何言ったんだ?」
いきなり力に真顔で凄まれて、甲本は眉をひそめる。
「何って別に、ただ、お前らの取り合わせって面白いし、やっぱお前とかに無理やりいいようにされてんじゃねぇかと思ってたけど違ったみてぇだなって話」
フン、と鼻で笑うと、力は当の佑人に早いとこ説明しなくてはならないことを思い出し、足早に階段を上がる。
佑人には受かったら知らせると言っておきながら、Y大の合格のことは言えずにいた。
それには理由があったからだが、S大に受かったからいいようなものの、受からなかったら二次募集も受ける覚悟はしていたのだ。
教室まで来るとちょうど午前中の授業終了のチャイムが鳴った。
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