ドアを開けるとすぐに坂本や東山と一緒にいた佑人が力の方を向いた。
教室にはほかに二人ほどいるだけで、登校してくる生徒はもういないようだ。
「大学は合格するわ、いい女には言い寄られるわ、明日が明るくて笑いが止まらねぇな、力。もちろん、みんなの前で女にああまで言われたんだ、当然内田にOKするんだよな?」
追いついた甲本がぺらぺらとまくし立てたお蔭で、力はたった今まで忘れていたことを思い出し、いや、それが佑人にも聞こえただろうことにちっと舌打ちする。
「え、力、受かったのか? ってより、どこ受けたんだよ!」
教室に入ってきた力に東山が声を上げた。
「おい、佑人、帰るぞ」
力は東山には何も答えず、コートを着ると佑人を呼んだ。
「え、だって、さっき内田さんが一時に校門で待ってるって言ったじゃないか」
佑人の言葉は力をイラつかせた。
「何で俺が、んなもん待ってなくちゃなんねんだ、バカかお前は!」
「だけど、内田さんは……」
あそこまで言うのは勇気がいることだろうと、佑人は彼女の心を思いやったのだ。
「力、いくら何でも女にああまで言わせて、行ってやればいいだろ? じゃなきゃ、冷酷なひでぇヤツってことになるぜ?」
東山も佑人に加勢したつもりで口を挟む。
「知らなかったのかよ? 俺は冷酷でひでぇヤツなんだよ」
力のイライラはヒートアップするばかりだ。
「あのお……すみませぇん」
そんなやり取りの中、開け放たれた教室のドアから一人の女生徒が恐る恐る顔を覗かせた。
「あ、山本さん、成瀬さんていらっしゃいますか?」
大事そうに両手に抱えたものはおそらくチョコレートだろう、見おろした女生徒の顔には力も見覚えがあった。
「美沙! どうしたんだよ?」
東山がちょっと驚いた顔で力の横から女生徒を呼んだ。
「あ、お兄ちゃん、成瀬さん呼んでよ」
「何で?」
「今日が何の日だと思ってるのよ、あ、成瀬さん!」
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