緊張感もどこ吹く風で弁当を平らげた坂本はピクニック気分で浮かれ調子のまま二人の顔を交互に見た。
「いや、ちょっとその話題はまだ早くないか?」
佑人は相変わらずだんまりな力のようすに配慮して、坂本をたしなめた。
「受かっても落っこちても三月は楽しい春休みだろ」
「てめぇの能天気な発言に周りがドン引いてるっての」
苦々しい顔で力がボソッと言った。
「力が周りに配慮するなんて、超めずらし!」
「てめぇは配慮しなさ過ぎだ」
「でさ、どこ受けんだよ?」
ドサクサ紛れに坂本が聞いてきたが、「受かったらわかるだろ」とだけ力は返す。
「ちぇ、俺とお前の仲だろ、教えてくれたってバチはあたらないだろ」
坂本はそれでも何も答えない力から、今度は佑人にターゲットを変える。
「成瀬は知ってるんだろ? あとでコッソリ教えろよ」
「しつけぇんだよ!」
つい声を荒げた力を制して、「こらこら静かに!」と坂本は苦笑いする。
「ったく、成瀬も大変だよな、こんなメンドいガキのお守りなんて」
やがて昼の休憩時間が終わり、佑人も坂本もあからさまにムッとした顔を隠さない力の席を離れてそれぞれの席へと向かう。
英語の筆記だけを受験した力は、リスニングに入る前に帰っていった。
それは聞いていたので佑人も教室を出ると、力は「頑張れよ」と言った。
「じゃ、また明日」
佑人は力が試験ができたのかどうかと心配しつつ力の後姿を見送ったが、その表情から読み取ることは難しかった。ただ今年に入ってから一緒に勉強したりしているうちに、よく佑人に質問をするようになったことでもぐんと力をつけてきた気がしていた。
志望校についても初めは佑人にも教えようとしなかった力だが、教えてもらった方が対策もたてやすいからと言うとやっと私大の獣医科がある二校の名前を口にした。
獣医学部は都内にはそう多くないし、地方にもあるのではと佑人は提案したが、力は頑として都内しか受けないという。
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