佑人の耳朶を噛むように力が囁く。
「……俺も好き……ちか……」
それ以上言葉にはならなかった。
互いに一気に解放される。
やがて白濁した意識が戻り薄らと目を開けると、佑人は身体を密着させたまま力に抱き込まれていた。
「……佑人……」
佑人の肩が少し動いたのに力が気付いた。
「たまんねくて……お前見てると、教室でもどこでも抱きたくなっちまって」
かあっと赤面させるようなことをほざく力に、佑人は「…バッカ……じゃないか」とボソリと言った。
「だから……内田とか何とか、どうだっていいんだ。どうせ俺はワルだからな」
「開き直ってんなよ……」
すっかり部屋の中は暗くなっていた。
エアコンもいれていないので空気はかなり冷たい。
「悪かった」
「え?」
「合格したら真っ先に知らせるっつっといて、Y大合格したんだが、やっぱS大しか行きたくなくて……んで、S大の発表まで知らせなかった」
それから力はどうしてもS大に行きたいわけを訥々と話した。
「俺は獣医にはなろうと思うが、ぜってぇ動物を殺したくねぇ。実験とかで動物殺さねぇとなれねえなんざ、バカやろうだってよ」
佑人の頭にすぐさま、小学生の時、仔犬を拾った力が口にした言葉が蘇る。
『そんなの、勝手な人間の都合でさ! 飽きたとか、飼えなくなったとか、勝手な理由で殺されちまうんだ! 俺は許せねぇんだ! 絶っ対!』
おそらくその言葉が力という存在を佑人の中でヒーローにした最初だったのだろう。
「実験でそんなこともできねぇようじゃ、獣医なんかになれねぇとかほざく野郎もいるけどよ。以前、アメリカで獣医学部の学生が俺とおんなじようなこと宣言して、でも獣医になったヤツがいて、模型とかコンピュータで実験したりできることになってる。でもんなもん、やっぱ取り合わねぇ教授どものが多い。当然、日本じゃ考えられねぇ」
「でも……人間も動物だし、どんな動物だって生きる権利はあるはずだ」
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