佑人は胸が苦しくなる。
「そんな当たり前のことをわからねぇコンコンチキが多いのさ。んで、俺はとにかく、ぜってぇ動物は殺さねぇって、誰が何と言おうと、そうやって押し通そうと思ってた」
おそらく力ならやるかも知れないが、それはきっと周りからのバッシングを避けられないことになるだろうし、ちゃんと卒業させてもらえるのだろうか。
佑人はそんなことを考えた。
「河喜多のジジイんとこには娘がいて」
「ああ、アメリカで獣医になったっていう?」
「俺みたいなこと考えてアメリカに渡ったから戻ってこねぇらしい」
「そう……なんだ……」
こんな難しい問題が力の上にのしかかっていようとは、佑人は思いもよらなかったし、やっぱりそこまで考えている力が嬉しくもあった。
「俺も一時は考えたが、俺の頭と英語のこと考えると、もし仮にできたとしてもすんげく先になるだろうし、アメリカに逃げるようなマネもいやだった。そしたらさ、河喜多のジジイんとこで、昔の教え子ってのに会って、アメリカの大学から招かれて今S大で教授やってるって、そいつ、コンピュータ駆使して代替えで実験するんだって」
佑人は少しほっとした。
それでも色んな理由で人間の犠牲になっている動物たちのことを考えると胸がひどく痛い。
「でもよ……受かんなかったら二次募集、もしそんでも受からなかったら浪人って、なるべく考えねぇようにはしてたけどよ、何よりお前と会えねんじゃないかって…」
「だから、浪人だろうが何だろうが、何で、そこまで意固地になるんだよ! 俺の気持ちだって考えろよっ!」
しっかと抱きしめられたまま佑人は文句を言った。
「だから死に物狂いだったんだって」
打って変った甘い囁きに、佑人は顔を上げた。
すると優しいキスを落とされる。
だが、まだ繋がったままの状態で、またしても力の熱が存在感を増す兆しをおぼえ、佑人は焦る。
「ちょっと待て! もう、次はナシだからな! もう、タローの散歩の時間だろ」
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