説明しながら練が佑人の前に置いたそれは、見ると小さめのホールケーキで、チョコレートでコーティングされた可愛らしいそれには、ホワイトチョコで、「to Yuto」と書いてある。
「力のやつ、恥ずかしげもなくこんなもん、真野ちゃんに作らせやがって、ま、堪能してくれよ」
「え……」
力がこんなことをするとは、意外というしかない。
だが、ということは真野には二人のことが知られていることになる。
まあ、練にもとっくになわけで、今更だろうとは思うのだが、さっきの坂本の、内田にホントのことを話してしまうかもしれない、という話を思い出した。
「食えよ。合格したら、そん時はまた合格祝いしてやっから」
「あ…りがとう。嬉しいけど、これ全部は……力も、食べるよね?」
途端、力はうっと唸る。
「一口くらいならな」
「カッティングしまっせ?」
練がナイフを持って促した。
四つに切り分けた一切れを皿に取ってもらい、佑人はフォークを入れる。
「美味しい」
ところが二口目をすくった佑人の腕を掴むと力はそのまま自分の口に持って行った。
すばやい仕草ではあったものの、まだ客もいるというのに、熱々ぶりを隠そうともしない力と佑人に、あちゃあ、と思わず練は舌打ちした。
「あ、そうだ、一応、えっと、合格祝い。月並みだけど手袋。車の免許とってもきっと使うだろ?」
佑人は持ってきた包みを差し出した。
ほんとはバレンタインのプレゼントにしようかと迷ったのだが、まあ、名目は何でもいいだろう。
「まあな、サンキュ」
すると力が珍しく柔らかく微笑んだ。
佑人はそれだけでひどく胸が熱くなった。
日本列島にはまだまだ寒気団が居座るバレンタインデーの夜、「ワンちゃん猫ちゃんとご一緒に カフェ・リリィ」では客が帰っても約三十分ほど、一カ所を残して明かりがほぼ消えた店内は高校生男子二人の貸切となった。
The End
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