噂通りだとしてもお節介をやくようなことはしなかったが、力が佑人を気遣ったことが意外でわざわざ声をかけてきたというわけか。
「仲間と一緒にいられる時間、もうあんまりないからさ」
甲本が力のことをちゃんと見てくれた気がしたからか、佑人はそんなことを口にした。
「仲間か……。それってすげぇよな、なんか。高三で、そんなこと言えるやつって逆に」
甲本は感心したように言った。
「力はマイペース過ぎて不器用だけど、仲間のことは大切にするヤツだよ」
ずるいのは俺だな。
力を独り占めしたいから、噂を訂正して力に近づいてくるヤツが増えたりするのが嫌だった。
でもわかってくれるヤツに、力のことを誤解させたままでおくのは、力にとって不利になる。本人は不利とか有利とかそんなこと考えないヤツだとしても。
「そっか。何か、勝手に思い込んで遠巻きにしてた俺ら、バカみたいじゃん」
それから甲本は来年の本番に備えて二校だけテスト受験するつもりだと話した。
「一応あと一年頑張ってみる予定」
もう少し前に話していたら、仲間になれたかもしれないけれど。
こんな俺じゃな。
英語の補講が終わる頃、教室に戻るとちょうど力と東山が出てきたところだった。
「あ、成瀬、わりぃ、俺、やっぱ成瀬の勉強の邪魔してるよな」
「だからいいんだって」
力は何も言わず佑人を見たが、そのまま並んで歩き出した。
「でも俺さ、こんなベンキョで頭いっぱいにする日がくるとは思いもよらかなったってやつ? 妹のヤツ、頭おかしくなったんじゃないとか言いやがって」
東山が笑うので、佑人もつられて笑う。
「今までのオレは仮の姿だっつっとけよ」
「言ってろよ!」
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