嘉月1

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 昨年末から例年にない寒波に見舞われた東京も、年明け二日には気温は上がらないものの太陽が顔を出し、都内老舗ホテルで行われた日本橋呉服問屋大和屋のイベントも昨年にも増した賑わいに、広瀬良太も小さく息を吐いた。
 乃木坂にある青山プロダクション。
 キー局で鬼の工藤と異名を取った敏腕プロデューサー工藤高広を社長とするこの会社は、テレビ番組、映画の企画制作プロデュース及びタレントの育成とプロモーションが主な業務内容であるが、良太の肩書は現在プロデューサー兼社長秘書となっている。
 工藤の特異な出自も要因となって、万年人手不足のこの会社では、実際のところ社長の運転手も雑用係も必然的に良太がやらざるを得ない。
 といえば、明らかにブラックだろうと思われがちだが、あにはからんや、忙しい時は自社ビルの自称社員寮に住む良太の猫の世話も引き受けてくれる、鬼の工藤ですら頭の上がらない、もはや会社のドンといっていい、何者が現れようがドンと構えた経理担当の鈴木春江を始め、志村嘉人を筆頭に中川アスカ、小笠原祐二、南澤奈々という所属俳優陣とそのマネージャー陣、小杉正明、秋山史哉、真中秀喜、谷川敬一郎と、軽井沢の山荘を管理する大塚平造の総勢十一人で構成されるこの会社は、人数だけで言えば弱小だろうが、団結力といい、互いに社員思いの文字通りアットホームなところはおそらくどこにも負けないはずだ。
 二日のこのイベントのために、大晦日に熱海にいる両親のもとに行き、一日の晩には戻ってくるというタイトなスケジュールではあったが、良太は久々両親や妹の顔をみて、母親の手料理を食べ、ほくほくした面持ちで戻ってきた。
 猫たちを残していくのは心配ではあったが、正味二日もない短い旅に列車など慣れない猫たちを連れ帰るのも可哀そうで、そこは最近購入した自動えさやり器も威力を発揮してくれたようだ。
 が、ドアを開けた途端、にゃーーーーーーん、と出迎えてくれる小さな可愛い猫たちを存分にモフモフしてやると、良太はすぐに翌日の準備に取り掛かった。
 何せ、大和屋のイベントはただのイベントではない、着物ショーに茶の湯がくっついているわけである。
 いつもながら自分は映画の撮影で京都にいる社長の工藤から、茶の湯に顔を出しておけ、という横暴な命令を受けている。
 そして茶の湯というのはただ顔を出せばいいというわけではない。
 席入りにも懐紙や扇子、楊枝などは最低限準備しておかなくてはならない。

 


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