菓子やお茶自体は美味しいのだが、如何せん良太は足が痺れるのだけは苦手なのだ。
とはいえ、これも仕事、それに昨年に続いて一応二度目ではある。
万全を期して向かった大和屋のイベントは盛況だった。
茶の湯も、無地の着物に袴姿の佐々木周平がお茶を点てるその所作は、相変わらずわざわざ佐々木目当てに大和屋の会員になった女性陣から、ほう、とため息が出るくらい美しい。
無論、癖のある髪は長く後ろで結んでいるので、着物に袴という出で立ちであっても、知らない者が佐々木のことを女性か男性かという疑問を口にしてしまう程、当人の見目麗しさがあってのことであるが。
佐々木はただの茶人ではない。
佐々木がお茶を点てているのは、たまたま彼の母淑子が陽成院流茶道師範であり、佐々木淑陽として大和屋社長の一人娘で大和屋の広報担当である綾小路小夜子のお茶の師匠であるという経緯からである。
佐々木自身、無論幼い頃から茶道を極めさせられてはきたものの、本来はクリエイターであり、昨年からこのイベントのプロデュースに関わっており、たまたま茶の湯をイベントに盛り込んだらどうかという代理店の構想にはまっただけなのである。
「ほんとにお茶やってるんだ? 浩輔さん」
へへへと苦笑いをしながら忙しく走り回っている西口浩輔は、このイベントを手掛けた代理店プラグインの社員であり、デザイナー兼営業担当でもある。
「なんか、プラグインファミリーのイベントみたいね」
こそっと良太に耳打ちしたのは、華やかな訪問着姿の池山直子だ。
茶の湯もイベントの一環であり、一門は皆、大和屋の着物を身に着けているが、特にお点前を担当する直子の訪問着は華やかなだけでなく、誰もが見て素敵だと思わせるような代物だ。
本当は大和屋からは振袖を打診されたが、大きなイベントのお点前では緊張して長い袖だと粗相をしたら困るからという直子の申し出で訪問着となったのだ。
「お点前、やるんだって?」
「そうなのよ、ほら、一門の初釜も今日やるでしょ? だから、佐々木ちゃんと幸田さんとあたしと交代に茶の湯の方やれって先生に言われて」
お点前は主に佐々木と一門の古株の弟子幸田が担当しているのだが、そこに若い直子も加えられたわけだ。
そして直子は、クリエイターとしての佐々木のアシスタントでもある。
良太は大和屋側のイベント担当者小夜子にも挨拶をしたが、銀色の地に鳳凰紋の訪問着、亀甲紋の帯と淡麗な色合いを品よく着こなしているのだが、派手過ぎない組み合わせにもかかわらずこぼれるような麗しさは小夜子だからこそだろう。
プラグインの藤堂義行は、まるでコンシェルジュか何かのように客を誘導し、終始笑みを浮かべている。
ただ唯一、なぜここにこの男が? と思わず頭の中にはてなマークを浮かべそうなのが、プロ野球の人気スラッガー、関西タイガースの沢村智弘だ。
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