「研二さん」
良太は声をかけた。
「良太くん、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします」
挨拶を交わした後、良太は研二に沢村を紹介した。
「沢村です。こちら『やさか』のオーナー、黒岩研二さん」
「関西タイガース、ファンですよ、実家京都ですよって」
研二は言った。
「ありがとうございます、沢村智弘です。パティシエ、ですか? 柔道家かと思った」
「あたり。研二さん、有段者」
良太が補足した。
「やっぱそうか」
沢村は一人頷いた。
「小林千雪さんとは高校の同級生なんだ」
「ああ、美人な小説家の」
余計なことを言うなと、良太は目で沢村を睨む。
「研二さん、お茶とか、初釜とか得意、ですよね?」
良太が聞くと、「まあ、仕事柄」と研二が言った。
「ほら、お前、研二さんについて行けば? 見様見真似で何とか切り抜けろ」
「わかったよ」
「まあ、正客じゃなければ大丈夫ですやろ」
研二が言った。
「まさか、佐々木さんのお母さん、お試しとかって、わざとお前を正客とかにしないよな?」
ふと良太の頭に一つの疑問がわいた。
「何だよ、正客って?」
「だから、さっきの席でお前のお母さんがやってただろ? 客の代表で、お菓子がどうとかお茶がどうとか茶わんがどうとか聞いたりって」
「ああ」
沢村は憮然とした表情をしているが今一つわかっていないようだ。
「多分、大丈夫やないかな? 正客は小夜子さんや思いますよ」
研二の言葉に少し良太もほっとした。
「とにかく、茶席をぶち壊すようなマネだけは避けろ」
「わかってる」
沢村はムッとした顔をした。
「あ、じゃあ、綾小路さんとこの初釜も?」
ふと思いついて良太は研二に尋ねた。
「ええ。お菓子をご利用いただいてますし」
「俺も行く予定なんです。じゃ、またその時に」
「はい」
「沢村のこと、よろしくお願いします」
研二は頷いて、沢村を伴って朱雀の間へと向かった。
翌日は着物ショーの開催が予定されているが、茶の湯も無事終了してしまえば半分は成功したも同然だ。
実は良太にはある重要なミッションが一つあり、今日もそれを切り出すタイミングをうかがっていたのだが。
やはりとにかくこのイベントが済んでからだな。
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