ACT 3
『見合いしたって?』
東京に戻って携帯の電源を入れるなり、切り口上で将清が電話をかけてきた。
そういえば一週間会ってないだけで随分会わない気がするものだ。
それだけしょっちゅう顔を合わせているということか。
「元気のやつだな、話したの」
『何で俺に言わないんだよ!』
「お前に言わなくちゃならない理由はないだろ?」
『元気には話してもか?』
くだらない口論になってきたので、優作は電話を切ってしまった。
ずっと携帯の電源を切っていたので、何度か家電の留守電に入っていたメッセージなしのコールも将清か。
そんなことをする人間は他に心当たりはない。
それにしても何だってあんなに将清が苛ついているのかわからない。
見合い相手は、きっと愛想を尽かしただろう。
最初から最後まで煙草ばかり吸っていた。
普段は滅多に吸わないのだが、取り繕う程の話もなく、手持ち無沙汰だったこともある。
綺麗な人だった。
一生懸命話をしようとしてくれていた。
しかし、彼女と結婚する、ということが漠然と思い浮かばなかった。
むしろ嫁に来ようか、などと言っていた元気との生活の方がまだ想像できる。
結婚となれば、それだけではない。
家庭をつくるということなのだから。
興味を持つことすらできなかった。
実は少なからず自分に興味を持たせてくれる相手に会えることを期待していた優作としてはがっかりだった。
ところが、さっきの電話で将清には、しばらく付き合ってみる、なんてことをつい口にしてしまった。
大嘘だよな。
優作は一人で笑った。
常に対抗意識を燃やしている将清には不様なことは言えないのだ。
翌朝、将清に捕まったのは、会社に着いて早々だった。
「ちょっと来い」
クールな目をした将清がわざわざ優作の部署まで来て立っていた。
「何だよ」
優作は怪訝な顔を向けた。
「いいから来いよ」
将清は怒ったように言ってたったか前を歩く。
近年全館禁煙となってから、廊下の突き当りの非常口には、たまにヘビースモーカーたちがこっそりたむろしている。
中にはマナーの悪い者もいるようで、優作は落ちている吸殻を拾う。
「だから何だよ、こんなとこで」
優作は将清を睨み付けた。
「お前が普通の友達でいたいっつったから、俺はずっとお前の友人のつもりでいた」
優作は将清の言葉に一瞬口を噤む。
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